研究内容 :


(1) 暗黒物質、暗黒エネルギー:


energy budget

現在の宇宙のエネルギー構成:

現在の宇宙は上図のようにほとんど見えないもの(暗黒エネルギー、暗黒物質)
で出来ている。暗黒物質の存在は確立したといってよい。渦巻き銀河の回転曲線、
銀河団中の銀河の速度分散、構造形成、宇宙背景輻射、重力レンズなどその観測的
証拠の枚挙にいとまがない。しかし、その正体は全くの謎である。一方、その速度
や相互作用に上限がついており(冷たい暗黒物質)、寿命が現在の宇宙年齢よりも
ずっと長くなければならない、といったある程度の性質は分かっている。

理論的に有力なアイデアとして、暗黒物質は未知の素粒子であると考えられており、
超対称性粒子、アクシオン、軽いステライル ニュートリノなど多くの候補がある。

暗黒エネルギーもその存在は非常に確からしい。現在の宇宙膨張を加速させており、
宇宙の将来を知るためにもその正体を解き明かすことが重要である。その単純かつ
有力な理論的候補は、アインシュタインが導入し、のちに人生最大の失敗として撤回
した事で有名な「宇宙項」である。宇宙項は宇宙全体に満たされた空間的時間的に
一定のエネルギー密度であり、宇宙膨張を加速させる効果を持つ。現在の観測は
暗黒エネルギーが宇宙項であることと矛盾はしないものの、他にもいろいろな
可能性が残されている


現在、暗黒物質の正体、その生成機構、宇宙の密度揺らぎへの寄与、高エネルギー宇宙線を
用いた間接測定について研究を行っている。また暗黒エネルギーについても暗黒物質との
統一的な理解についての研究を行っている。

  
(2) インフレーションと密度揺らぎ進化:
インフレーションは宇宙のごく初期に起こったと考えられる急激な膨張時期のこと。

インフレーションを引き起こすスカラー場をインフラトンと呼ぶ。(場とは、時空の位置を
変数に持つ演算子のことで、時空の各点で粒子を作ったり消したりできる。そうする事で
因果律が満たされている。)

インフラトンの正体やその性質を探るには高エネルギーにおける物理を記述する理論が必要
である。

  060915_CMB_Timeline75   density perturbation
宇宙の進化図(右に行くほど宇宙が膨張)    インフラトンのポテンシャル

インフラトンの量子ゆらぎが現在観測される宇宙背景輻射 (CMB)の揺らぎ、銀河・銀河団
などの豊かな構造の種となったと考えられている。




さまざまなインフレーション模型の構築、その観測的検証、標準理論を超える物理との関連、
暗黒物質や物質の起源との関連についても研究を行っている。



(3) 素粒子論的宇宙論:
宇宙膨張のために、初期宇宙は非常に小さく、温度が高く、密度も高かった。
その極小の世界を記述するのが素粒子理論である。そして宇宙が膨張するとともに
温度が下がり、現在観測される宇宙に進化した。現在の極大の世界を扱うのが
宇宙論である。素粒子論と宇宙論は膨張宇宙を背景に密接に結びついており、
初期宇宙は標準理論を超える物理に対して重要な制限を与え、また新しい物理が
宇宙論を通して垣間見える可能性がある。
particle cosmology.001