2011年度原子核三者若手夏の学校

- 素粒子論パート -



三者共通講義 16日 18:30-22:00

場の理論と実験から学ぶパイ中間子が織りなす原子核物理

土岐 博  (大阪大学核物理研究センター、名誉教授)

概要

湯川粒子であるパイ中間子は原子核の構造に決定的な役割を果たしている。パイ中間子交換力の主成分であるテンソル相互作用は標準の多体理論であるハートレーフォック理論では取り扱うことができず、新しい多体理論を必要としていた。この新しい多体理論の創出で原子核物理は場の理論の研究対象となった。 場の理論(ゲージ理論)から話を始めて、NJL 理論(南部理論)の話をし、カイラル対称性の破れの物理を紹介する。NJL 理論のボソナイゼーションを紹介し、シグマモデルラグランジャンを議論する。その特徴を生かした原子核物理の記述法を紹介する。 新しい多体理論による数値計算の結果を実験と比較する。さらに、現象論的な核力との比較を行い、核力から記述する原子核物理との比較を行いたい。 ボソナイゼーションの辺りでは高密度でのクォーク物質がどのような特徴を持つかの議論も取り込みたい。 夏の学校では実験の人も多く参加しているようなので、出来るだけ式の細部の議論は控え、どのように考えることによってどのような式を導出できるかをお話ししたい。 パイ中間子を陽に扱うことが可能になったことで、多くの実験データを新しい観点から議論することが可能になった。さらには新しい実験データを必要としている。 これからの原子核物理の理論・実験での発展の方向を議論したい。多くの若い研究者との議論を楽しみにしている。

講義A (弦理論) 17日 8:45-12:00 , 18:30-22:00

F-Theory and Grand Unification

川野 輝彦  (東京大学、助教)

概要

タイプIIB 超弦理論の一種のコンパクト化であるF-theory について知られている基本的な事柄から始めて、このF-theoryのコンパクト化を用いた、 現象論的に好ましい大統一理論を構成する試みについて簡単なレヴューを行う。

講義B (場の理論) 19日 8:45-12:00 , 18:30-22:00

超対称性の破れとゲージメディエーション

 大河内 豊 (数物連携宇宙研究機構、博士研究員)

概要

超対称性の破れが近年再び注目を集めている。準安定状態を用いた超対称性の破れは、論理的には排除されるものではないにも関わらず、驚くべきことに、近年までその可能性は調べられてこなかった。こうした概念的なブレイクスルーにもとづき、新たな超対称性の破れの機構が提案され、様々なモデルビルティングへの応用がなされている。こうした発展はモデルビルディングを柔軟にする一方で、より一般的な性質も明らかにしてきた。この講義では、超対称性の導入からその破れをまず議論し、その後、ゲージ対称性を用いた超対称性の破れの伝達機構に関しての最近の発展のレヴューを行う。

講義C (現象論) 20日 8:45-12:00 , 18:30-22:00

余剰次元理論:ヒッグス、Tevatron/LHC、暗黒物質

細谷 裕 (阪大素粒子論研究室、教授)

概要

Kaluza-Kleinが高次元での統一理論を提唱してからほぼ90年ですが、いよいよ余剰次元を実験的にみることができるかもしれません。 近年発展してきた高次元電弱統一理論、UEDモデルとゲージ・ヒッグス統合理論を中心に解説します。 余剰次元をみるとはどういうことか、ヒッグスボゾンがどうして余剰次元理論の鍵になるのか、Tevatronの実験から何が言えるか、LHCで余剰次元をどのように見るか、ヒッグスボゾンがどうして暗黒物質になりうるのか、などを議論します。